2019/04/23
Made in Japanの厨房機器に未来はあるのか?
今年の1月23日に東京ガスの厨BO-SHIODOMEで東京ガス 最適厨房研究会 第9回海外調査団の解団式が執り行われました。この調査団は日本の厨房機器メーカーのリーダーによる海外の最新施設や厨房機器メーカーの工場の視察を目的として企画されたものです。私も発足時から企画に携わってきました。 当初は社長や第一線の取締役の方々(当時は比較的年配者が中心)でしたが、第8回からは次世代を担う若手中心へとメンバー構成を一新いたしました。これは私自身の中にこれからの日本の厨房機器に未来はあるのかという疑問が沸々とあるいはボクシングでのボディーブローのようにじわじわと湧き上がってきたからです。
私が厨房業界に入った頃は桜の花がそろそろ咲く頃に晴海の展示場でホテレスショーが開催されていました。今のホテレスショーとは違いアジア最大のフード関連ショーでした。当然海外からの来訪者も多く、非常に国際色にあふれていたものです。他方、現在ではアジア最大のフード関連ショーであるシンガポールでは規模は現在の五分の一程度ではありましたが東南アジアでの最大ということもあり話題にはなっておりました。シンガポールの会場では日本の食器メーカーである日本の3Nと言われた有名3社をはじめ多くの厨房機器メーカーも大きくブースを構え、会場の三分の一は日本メーカーだったのではないでしょうか。それから20年後の今から10年ほど前ぐらいにはシンガポールのショーからフジマック、ホシザキ他数社、五本の指で数えられる程度の出展社しかなくなってしまったのです。 もちろん、世界三大ショーと言われるミラノのHOSTにもアメリカのNAFEMショーはさらに悲惨な状態です。
私が海外のプロジェクトで仕様に入れる日本製機器は現在ではほとんどありませんし、それが日系の資本でも同じような状態です。寿司関連なら日本の機器は入りますが。和食がせっかく世界遺産になったというのに日本の機器でなければならないものはほとんど無く、ましてや、これは他所にもあるけど日本製は性能が良いからといったものも無いのが現状です。
日本の機器メーカーは売上、資本力はどれをとっても世界のTOP10のほとんどなのに寿司ロボ以外に世界に誇れるものが存在すらないのです。1980年にコンビスチーマーが日本に上陸し、世界中から色んな機器が輸入されているのに日本からは立ち型炊飯器がほんの少し輸出されているだけです。1950年の戦後から日本の厨房機器は米国の影響を受けて進歩してきた訳です。当時はほとんどがマネ、コピー製品でした。今でこそデッドコピー製品はほとんどありませんが今使っている機器のほとんどは当時よりほんの少々よくなった程度なのです。日本市場そのものが性能重視ではなく値段の叩き合いによる過当競争の渦に巻き込まれた結果、良いものは要らない安いものを持ってこいという流れの中で新規開発という概念自体がなくなってしまったのではないでしょうか。
そんな鬱積した気分の中、3年前の第8回調査団の企画をするにあたり、今までの様に欧米の最新事情の視察ではなく、これから日本にとって最大の美味いジュースになり得る東南アジアの厨房機器の現状を次世代の厨房機器業界を背負って立つ方々と視察に行こうと思い立ったのです。施設、工場などと並んでマレーシアにあるカリナリーの大学(今に至るも日本には一つもなくあるのは調理師学校のみ)なども見学させていただき、これは何とかせねばならないという参加者の皆さんの共感を得ることができました。その後、参加者の中から「2世の会」(3世、もっと古い世の方もいらっしゃる)が結成されたことは心強いことです。
今回は「2世の会」の皆さまはもちろんですがさらに新たなメンバーを加えてフィンランド、エストニア、ラトビアに行ってまいりました。主たる目的はフィンランドの片田舎でダクトやダンパーの製造から創業されたHALTON社の創業工場の視察をメインに据えて、長くソ連の支配下にあって、ヨーロッパでは厨房事情の後進地の視察をいたしました。エストニア、リトアニアのレポートは別に機会を利用して発表しますが、HALTON社については少々詳しく説明します。
今年創業50年の非常に若い企業でヨーロッパ以外に進出してからはまだ30年程度です。今では世界一フードメーカーになり、革新的な技術も次々と開発しています。ドイツのウィンボック社やアメリカのベントマスター社などもM&Aで獲得し世界中に生産拠点を作り(数年前にブラジルにも工場をオープン)販売拠点も世界を網羅しています。私が初めてHALTON社を知ったのはフード部門が社内的には1割にも満たない売上しかなく日の目を見ない時代にマレーシア工場を初の海外工場をとして作ったばっかりの時でした。それがあれから20数年の間に世界一のフード会社になったのです。今回の視察の目玉はまさにそれで、その秘訣皆さんと共有したかったのです。参加者の皆さまがどう感じたかはそれぞれ一国一城の主になる方なのでそれぞれですが、HALTON社の工場から出てきてみんなの目が戦闘もモードの中に何やら思慮深さが伺えたのが頼もしい限りでした。
Text by
鈴木 茂
理事 / 株式会社井之上事務所