2021/11/10

SDGsとは

SDGs の取り組み

私は 、(一社)日本フードビジネスコンサルタント協会の理事長の畑です。当協会はフードビジネスに関するさまざまな分野のコンサルタントが集まり 、知り得た情報を共 有したり、一般会員に発信したりしながら、一緒にクライアントの問題解決のために協力しながら ソリューションの提案を行っています。協会活動とは 別に、厨房設計コンサルティングとフードビジネスのコンサルティングを行う NRT システム(株)という会社の代表取締役でもあります。 現在、皆さんさまざまなシーンで SDGsという言葉を耳にしていることと思います。SGDsカラーホイールのピンバッジを、背広の上着やジャケットの襟に付けていらっしゃる方も多くおられます 。SDGsの詳しい内容は、専門家の皆さんがセミナーを開催したり、書籍を出版されたりしていますので 、そちらを参考にしていただくこととして 、 ここでは簡単な概要と、何をしていけばいいのかといったことを、フードビジネスや厨房といった切り口で少し問題提起してみたいと思います。

SDGsとは

持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)は、2001 年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで193の国々によって採択された、 2030年までに持続可能なより良い世界を目指す国際目標です。

17のゴール(目標)と169のターゲット(達成するために必要な具体目標)から構成されており、地球上の誰一人取り残さない(leave no one behind)をキーワードとして、先進国も発展途上国も関係なく、全世界で取り組む普遍的な取り組みになっています。

目指す目標は多岐にわたっており、どの目標に取り組めばいいのか悩んでしまうかもしれませんが、「持続可能なより良い世界を築くためには、何をしたらいいか」、または「自分はどのように目標達成に貢献できるか」、この ことを考えて実行していくことが求められています。 また、SDGs のロゴが丸い輪で表されているように、ゴール・ターゲットは相互につながり、関係していることを示しており、一つの課題への取り組みが、他の課題にも影響しています 。

17のゴール(目標)と169のターゲット (達成するために必要な具体目標)

1番目の目標である「貧困をなくそう」から6番目の「安全な水とトイレを世界中に」までは、貧困や飢餓、水の衛生など、開発途上国のベーシックな目標が中心ですが、貧困問題やジェンダー平等などについては、先進国でも多くの課題があります。7番目の「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」から12番目の「つくる責任つかう責任」までは、働きがい、 経済成長、技術革新、クリーンエネルギーなどという目標が挙げられており、先進国 や企業にとっても取り組むべき課題が多くあります。また、「つかう責任」では一人一人の消費者にも持続可能な世界実現のために責任があることを理解することができます。13番目の「気候変動に具体的な対策を」から 15番目の「陸の豊かさも守ろう」までは、 気候変動、 海洋資源、生物多様性などは、地球全体で考える課題が中心になっており、16 番目では「世界平和」、17番目では国や企業や人々の協力をテーマにしています。

何から始めるべきか

前述の通り、SDGsは提示されている開発目標は多岐にわたっています。しかも、それらの目標は相互に関連しており、どの目標に取り組もうかなどと考えていくと 収 拾がつかなくなる可能性があります。これは私論になりますが、どの目標を掲げて実行していこうかと考えるよりも、自分が置かれている社会、会社、家庭などが抱えている課題に対して、今より良くなるためには自分がその課題をどう解決していくかということを考えて、行動に 移すことから始めるべきと考えています。

持続可能な業界に向けての課題

1. 食品ロス対策

SDG 2 SDG 12 SDG 14 SDG 15

2018年度の推計では、日本の食品廃棄量は年間2,350万トン以上と言われます。その中で本来は食べられるのに捨てられる食品の量は、年間600万トンになっているそうです。日本人一人あたり年間約47kgとなります。その中でも事業系の食品ロスは324万トンで、54%を占めます。食料自給率が40%未満の日本が、世 界で一番廃棄しているというのです。その半面、世界では飢餓に苦しむ人たちも大勢います。先日開催されたオリンピックのスタッフ・ボランティアへの食事の多くが廃棄されていた問題が話題になっていましたが、以前からスーパーやコンビニの総菜の賞味期 限と廃棄が問題とされています。売り切れにより販売機会を失うことを恐れ、必要以上に生産して、大量に廃棄されることが当たり前になっていたのです。私たちが少しでも新しいものを手にしようと、棚の奥から商品を買っていくことにも原因があります。 大手のスーパーやコンビニでは、すでに食品ロスの削減に向けて取り組みが進められていますし、フードサービスでも、このことにスポットライトを当てたコンセプトの 飲食店ビジネスも行われています。しかし、この問題はまだまだ解決していかなければならない業界の課題の一つでもあります。

2. 地球温暖化対策

SDG 7 SDG 9 SDG 11 SDG 13

近年、地球温暖化による気候変動が水災害を引き起こし、農作物への影響や生態系へ影響していることなどが懸念されています。その原因は排出される温室効果ガスが原因とされ、その中でも影響度が大きいのが二酸化炭素と言われています。産業革命以降、化石燃料の使用が増え続けた結果、大気中の二酸化炭素の濃度も増え続けています。厨房では、多くのガスや電気のエネルギーを消費しています。ガスは化石燃料を直接燃焼 させて排出していますが、電気は火力発電時に多くの二酸化炭素を排出しています。特に、日本では安定供給と経済性の面から、石炭火力に依存度が 他の先進国に比べて高いことも課題となっています。東日本大震災以降、多くの原子力発電は稼働が停止されており、太陽光発電など自然由来の発電への取り組みが進められていますが、コスト面を含めて、まだまだ途上といった所です。

しかし、2021年4月の気候変動サミットでは、2030年度に2013年度比で46%削減すると、国際社会に向けて公約しました。この数字は、2015年のパリ協定で公約した26%削減をさらに一歩踏み込んだ形になっています。また、2020年10月には、菅首相が2050年までに、温室効果ガスの排出を全体 としてゼロにすること、すなわち、「2050 年カーボンニュートラル、脱炭素社会」を宣言しました。今後さらに一層の省エネと脱炭素化に取り組まなければ ならない社会において、厨房はどうあるべきかを、厨房業界の関係者が発信していく必要があります。2011年の東日本大震災でも経験したように、エネルギーのレジリエンスの観点からも、極端な考えに頼らず、バランスの良い組み合わせを検討していくことが求められます。

3. 厨房での労働環境の改善

SDG 3 すべての人に健康と福祉を SDG 5 SDG 8

厨房では、加熱調理の燃焼排気や調理機器や料理からの輻射熱から、温熱環境が問題とされてきました。また、厨房床は調理時の水撥ねなどで濡れて滑りやすいということから、転倒事故なども問題とされてきました。さらに、フライヤー前で十分な換気がとられていないことから、油煙が十分回収できずに、オイルミストが床に落下しやすくなっている所に、ドライキッチンで床に水を流さないなどという間違った考えが重なって、重大事故になった事例も聞いたことがあります。 従業員数に見合う更衣室やロッカーが十分に準備されていなかったり、用意されていても男女別々でなく、交代で使用しなければならなかったりといったことが見受けられます。売り上げを最優先に客席ばかりに力を入れて、従業員の労働環境を犠牲にすることを優先することも見直す必要があります。

最近では、こういった厨房の労働環境が問題とされ、 改善されてきてはいます。しかし、厨房だけでなく、ホールにおいても、そこで働くスタッフのお客さまを喜んでもらいたいという思いに甘えて、置き去りにされている労働環境の問題があります。業界の中にはこれらに限らず、さまざまな課題が存在しており、それぞれに持続可能な社会の実現のために、一人一人が取り組んでいくことが求められてきているということを理解して、より良い社会の実現をしていきましょう。


※本コラムは”月刊厨房”2021年9月号に掲載された内容を編纂し掲載しています。

Text by

畑 治

FBCJ 理事長 / NRTシステム株式会社

1959年岡山県生まれ、1982年大阪大学卒業後、大手コントラクトフードサービス会社で開発企画業務に従事、その後、国内外のフードサービス関するコンサルティング会社での勤務を経て、2002年、NRTシステム株式会社に入社。2010年3月、代表取締役に就任。2014年、一般社団法人日本フードビジネスコンサルタント協会を設立し、理事長に就任。