2022/03/01

SDGsを食ビジネスの進化・発展につなげるために

外食産業の進化と発展のためのSDGs

㈳日本フードビジネスコンサルタント協会 専務理事の竹田クニと申します。

私は外食マーケティングコンサルタントとして「業界の進化と発展に貢献する」をミッションに活動しておりますが、近年は、人口減少からくる市場漸減、労働人口減少、消費の主役世代交代、消費者の価値観変化など外食を取り巻く環境が激変しており、その課題解決のためのマーケティングやテクノロジー活用についてお話をしてきました。コロナ禍は「未来を加速させた」といわれますが、その未来において重要な「価値」の考え方として注目されるのがSDGsであると思います。

本連載では4回にわたり、フードビジネスにおけるSDGsの考え方や課題について解説してまいりましたが、5回目の今回はそのまとめとして、外食産業の進化と発展のためのSDGsを考えたいと思います。

「価値」の在り方としてのSDGs

20世紀とは異なる競争環境

外食産業は20世紀に大きな発展を遂げましたが、背景にあったのは、経済成長、所得向上、人口増加、外食率の上昇などでありました。市場に投入される商品・サービスに重要視されたのは「新しさ」「トレンド」、そしてチェーン店など規模拡大を志向するビジネスを支える「コスト」「スピード」「供給体制」でありました。

近年の競争環境はどうでしょうか?増えすぎた店舗は同質化・価格競争を招き、消費者にとっての価値の陳腐化・マンネリ感は集客難に繋がりました。また中食(スーパー、コンビニ)の進化と販売チャネルの増加は、外食中食内食の垣根を超えたボーダレスな競争となっています。

SDGsは「価値」の在り方に繋がる

SDGsは今後の重要キーワードでありますが、それは経済成長の頃の「トレンド」や「流行」といったものではなく、また、対応しなければならない「規制」でもありません。

SDGsは人々が、世界が感じる「価値」の在り方に繋がる課題と考えます。今の時代に人々が感じる(べき)課題があり、その解決や支援に繋がる取り組みが「価値」として認識されると言ってよいでしょう。

「価値」は何によって決まり、変わるのか

多くの人が“共感する”価値には一定の傾向があります。

1: 時代

例えばまだ「モノ」が満ち足りていなかった1970年代頃。人々は家電製品や自家用車、大型テレビなど、多くの国民が「モノ」で生活が豊かになることを志向しました。続く80年代ではブランド品や高級レストランでの食事など人と差別化できることが豊かさでありました。この時代は「モノ消費」の時代といわれます。

1990年半ば“バブル崩壊”以降の時代は、長引く景気低迷の中「モノを売るのではなく、“体験”を売る」ということが提唱されました。消費によって得られる目的…人との交流やエンターテイメントなど、消費行動の「目的」に着目することが重要といわれました。こうした考え方が「コト消費」であり、“モノ消費からコト消費へ!”ということが当時盛んに言われました。

そして近年の消費はどうでしょうか?近年叫ばれているのは環境問題や格差問題、平等、健康 etc. 消費の対象のモノや消費によって起きる現象に対しての責任意識や貢献を問う考え方に多くの人が共感し重要視しています。 いわば消費の意味・意義やあり方が問われているわけで、私はこれを「イミ消費」と呼んでいます。

2: 世代

「世代」というのは単に年齢だけでなく、生まれ育った時代の経済、社会情勢によって育まれる共通の価値観や行動特徴として現れ、経済活動に影響を与えます。

団塊世代(75以上)、ポスト団塊世代(65から70前半)、バブル世代(50代後半)
景気の良かった時代を社会人として過ごした世代は、会社宴会や打ち上げなど団体行動志向、飲酒志向も高く、ブランド志向は商品だけでなく企業や学校といったものにも表れ、“世の中の多くが認める”成功モデルに人々が集まる傾向があります。

氷河期世代
その下の世代は好景気だった少年時代から一転、社会人デビューからは長引く不況という境遇の世代。団塊Jr世代(40代後半~50歳)、ミレニアル世代前期(30代半ば~40歳)がここに含まれ、なかなか上がらない収入、ポストレス、将来不安を抱えている、といった特徴があります。昭和の成功モデルの崩壊を目の当たりにし、ブログやSNSという自己表現手段が様々に登場したことから「多様性」を重んじる傾向が強いです。

ミレニアル世代後期、Z世代
Z世代は2021年の流行語にもノミネートされましたが、その少し上の世代を含む“若者世代”はまた異なる特徴を持っています。ソーシャルグッドに高い関心…将来に向けた不安を持ち、今日の社会の歪を生み出した諸問題に対して関心・正義感を持っています。またネット社会で溢れる情報の中生活し、炎上などリスク感受性も高いため、自分らしいスモールコミュニティを好む傾向があり、安定志向も高いと言われます。

 

SDGsは今世界が大切に考えるべき課題を明らかにしました。

今後の消費の主役世代は②と③=氷河期世代、ミレニアル世代、Z世代。彼らが重視する多様性やソーシャルグッドの考え方は、SDGsにまさにあてはまり、SDGsに対応した「価値」をもつことが彼らの消費行動に繋がることは明らかです。単にその商品・サービスがもつ機能や性能・品質だけでなく、SDGsに対応した「価値」をまとっていることが、彼らが購入する動機となり、多少価格が高くても買いたいという行動にもつながるわけです。

「価値」を創り、対価に変える取り組み ~外食企業としての取り組み~

こうした時代・世代の価値観を踏まえた取り組みがこれからの企業活動に極めて重要となります。それは①商品・サービスだけでなく、②企業理念、戦略、③PR と企業活動全体に及びます。商品サービスがSDGsの考え方にそったものであることは勿論ですが、例えばフードロスや資源保全に対する具体的な活動を行っている、あるいは人事において差別がなくコンプライアンスなど具体的で正しい行動規範が実践されている、そしてそういった活動を行っていることをステイクホルダーに理解共感してもらえるPR活動を行っている…。こうした取り組みすべてが、消費者の利用動機や企業評価に直結するのです。外食企業そして外食企業を支える産業の私たちは、互いに協働しながらこうした「企業価値」を高めていかねばなりません。

「20世紀の成功体験」からの脱却、そして「新たな食ビジネスの再興」へ!

規模と効率を追求し発展を遂げた20世紀の外食産業は世界に誇れるものであり、日本の食文化は世界で高く評価されています。
しかしながらこれからの時代、SDGsが提起する新たな課題に対応した「価値」づくりを日本の外食産業は進めていかねばなりません。20世紀の成功体験だけにすがることなく、環境、平等、健康…これからの時代と世代が求める「価値」を創ることへ、官民挙げて取り組むことが重要なのです。新たな「価値」づくりは、企業が単独で成し遂げられるものではありません。外食企業と、食材メーカー、卸、設備、工事、販促、コンサル…外食企業を支援する企業が手を携えて、高いモチベーションで挑んでいくテーマなのだと考えます。

本連載のテーマは「フードビジネス SDGs魂」
魂と志をもって、“新しい価値”を実現していきましょう!

本コラムは、月刊厨房2022年2月号(一般社団法人日本厨房工業会)に掲載された内容を加筆し編集したものです。

Text by

竹田クニ

専務理事 / 株式会社ケイノーツ 代表取締役

竹田クニ

マーケティングコンサルタント
外食産業の進化発展に貢献することをミッションとして、マーケティングを中心にコンサルティング、セミナー・勉強会、食の BtoB マッチングなどを行っている。株式会社リクルートライフスタイル ホットペッパーグルメ外食総研エヴァンジェリスト(業務委託)。2018 年一般社団法人 日本フードビジネスコンサルタント協会 専務理事、早稲田大学校友会 料飲稲門会 常任理事、日本フードサービス学会員会員。