2022/02/01

SDGs ターゲット8 ”働きがいも経済成長も”

キッチンスタッフの厳しい労働環境

キッチンの仕事は料理を覚えられるし、”手に職”という言葉があるくらいだから、経験してみたい…。
そんな思いがあると思います。

美味しいものを作れるようになるし、料理は楽しそうだし、華やかなイメージを思って、
キッチンでの仕事をしてみたいと思っている人の中には、実際に厨房スタッフがどんな仕事をしているか詳しくは知らないという人も少なくありません。

3K(きつい・汚い・給料が安い)と言われる飲食の仕事。
飲食業界の離職率は全業種1位の30%。
平均年収も年間休日も最下位と言われていて、確かにきついと感じてしまいます。

キッチンスタッフの仕事がきつい理由として、挙げられるのは
「水仕事で手荒れ・あかぎれ・手湿疹の痛みやかゆみがつらい」
「楽だと思っていたはずなのに、ピーク時になると忙しすぎて辛い」
「単調な仕事しか与えられず、やりがいを感じない」
「覚えることが多くて、仕事に慣れるまで大変」
「教えてもらっていない仕事をふられて、つらい」
「労働時間が長時間化している」
「急用や体調不良で急に休むことができない」 など。

これまでの飲食業界は「飲食店で働くこと=独立のために修業させもらう」という考えが一般的でした。給料などの待遇が悪くとも、独立の夢に向けて修行を積むため、頑張るという人が多くいました。特に料理人の世界では、最初は皿洗いや掃除などの下働きだけに徹することが常識です。例えば寿司職人は下働きが非常に長く、“飯炊き3年、握り8年”という言葉がある通り、修行は10年以上かかると言われるほどです。

私自身、フランス料理のコックとして飲食業界の扉をたたき上記のことを経験してきました。当時は、ただただフランス料理のコックになりたいという一心でやってきたものですから辛くても耐えることが当たり前と考えて修業をしてきました。ましてや、専門学校在学中においても、上記のことが当たり前なのだと教え込まれていました。

いざ、現場に入ってみると確かに厳しい環境ではありました。
ですが、その分学びも多くあったのも事実ですし、それがあって今の自分がいると思っています。
ここからは、そのキッチンスタッフの仕事内容と培ったものを書いていきたいと思います。

キッチンスタッフの仕事とは …

キッチンスタッフの仕事では、下ごしらえをしながら次に行う味付けの工程を考える、調理の仕上げをしながら盛りつけについて計画するといったような、実際に身体を動かしていること以外のことを頭で考えなければならない場面がいくつもあります。

特にチェーン店系の飲食店では、用意されているメニューには全て決められたレシピがあります。厨房スタッフには、そのレシピに沿って料理を作り、常に一定の味を提供することが求められます。こういった時に、作業の手を止めず計画を立てられる人がキッチンスタッフに向いているといえるでしょう。

厨房スタッフとして培えるものとは…

① 新しい物事に柔軟に対応できる

調理場の仕事に従事していると、新しいメニューが開発されたり今まであったメニューの作り方が変わったり、と仕事が流動的に変化していくことがあります。そういった変化に柔軟に対応して、取り入れていける頭の柔らかさを持つことができます。

② 単純作業・地道な作業も行える

キッチンの仕事は、盛り付けや料理の作成など華やかな仕事だけではなく、野菜の皮を延々と剥く、皿を沢山洗うなど地道な作業も数多くあります。こういった、一見地味でも絶対に必要な作業を嫌がらず行うことができます。

③ 行動の優先順位や締め切り時間が身につく

料理の流れを把握して、もっとも優先させなければならないことを分析し、今何をしたらいいのかを常に考え行動できるようになります。優先順位が決まったら締め切り時刻を定め、その間にやらなければならない工程を分類して作業を行うよう動作が身につきます。

キッチンの働きがいとは…

キッチンスタッフは料理を専門とする職人肌のタイプの仕事ですが、技術を磨くことで将来的にメニューを開発したり、料理長となって厨房を仕切ったりするなど上層のポジションも十分に狙えます。また、確かな腕があれば、日本だけではなく、世界を舞台に働くことも可能です。

「料理を作る」という視点においては、家庭でも行われているごくごく日常的な活動だと言えますが、プロとしてお客様に料理を提供することには多くのチャンスがあります。そういった意味でもキッチンスタッフとは、自分の腕一本で稼ぐという“こだわりとプライド”を持って取り組める仕事です。そのため、自分の取り組み方次第で大きな働きがいを見出すこともできます。

これからするべきこととは…

どんなに仕事が身についたとしても、今までと変わらない環境のままで働きがいを見出すのはとても難しいのも事実です。そのために、事業者がしなければならないことは

① 従業員の休みを週休2日にしたり、1日8時間勤務までという制度を設けたり、お店の定休日を週2日にするなどの対策を取るようすること。

② 簡単な研修を行い仕事内容や経営理念を伝えるほか、働く環境に関する説明をします。
アルバイトから正社員登用のルール、休暇、昇給・昇進制度、独立支援制度、福利厚生などを伝えて、働く人が不安感を解消すること。

③ 昇給制度を導入し3ヶ月後、6ヶ月後に仕事の実績を評価されて昇給していけば、従業員はモチベーションが保て、離職率も減少するでしょう。

④ 人手不足のこの時代、お店側もすぐに戦力を育てていかなければいけないため、接客や調理レシピ等のマニュアルを作成し新人スタッフへの教育やトレーニングをすること。

まとめ

飲食店は人材を採用、育成し、定着させなければ営業が成り立たない人ありきのビジネスです。

最近の飲食業界の人材不足は、古くから繰り返されてきた慣習が招いたこととも言えるのではないでしょうか。
料理や接客サービスが好きな若者は沢山いるはずなのに、その人たちが働きたくなくなるような環境を作ってしまったということです。

安月給で労働時間が長くて、無理難題を言われる…。
それがあたりまえの業界では、次の世代はついてきません。

ですが、上記のような取り組みを進めていくことで今の世代が少しずつ意識改革をして、「若者が働きたくなる飲食業界」を作ることが次の10年を作り、働きがいと業界全体の経済成長が高まっていくであろうと思います。


本コラムは、月刊厨房2021年1月号(一般社団法人日本厨房工業会)に掲載された内容を加筆し編集したものです

Text by

秋本 純一

理事 / FRS コンサルティング 主宰

秋本純一

“銀座 マキシム・ド・パリ”にてフランス料理の基礎を学び、その後数々のレストランやカフェなどでメニュー開発及びホール接客や店舗運営のノウハウを学んだ後、2020年、株式会社プロスパーダイニング 取締役総料理長に就任。現在、FRS コンサルティング 主宰。