2018/05/17

フードビジネスにおける展示会の事例:FOODEX “MiRAiDO”

私の専門は、コミュニケーション領域の空間デザイン、建築デザインを手がけることなのですが、これまでのキャリアの中で特に多かったフードビジネスに関わる空間デザインも並行して手がけています。その中で、FBCJでも中々扱わない、少しユニークな事例をご紹介します。フードビジネスに関わる展示会です。

今回ご紹介する、FOODEXに出展した未来堂は、中京エリアを本拠地にした飲料の量販店を中心に酒類の卸業、ECでの販売などを手がけられています。ここ数年は特に飲食店向けワインインポーターとしての卸業務に力を入れており、今回ご紹介するPLESURE WINE(未来堂のワインインポートチャネル)ブースも、その施策の一環として2017年からFOODEXに出展しています。

ご存知の方も多いかと思いますが、FOODEX(フーデックス)は毎年幕張メッセで開かれる、日本最大の飲食品見本市で、国内のメーカーや食品系商社の出展のみならず、海外からのパビリオンブース(その国の外務省や大使館が音頭をとって自国のいくつかの生産者や商社を出展させる)も数多く出展しており、多くの国内外の商社、卸問屋、飲食関係者で賑わっています。未来堂は2016年のPLESURE WINEの立ち上げ当初からFOODEXに参加しており、主に飲食店とのタッチポイント(顧客接点)の獲得を主軸におき、フランスやイタリアやドイツのワイン小規模生産者のイントロデューサーとして出展しています。私の会社(株式会社デザインカフェ)は立ち上げ当初からブースデザインと装飾に関するデザイナー&コラボレーターとして関わっています。

意識の高いバイヤー、飲食関係者がこぞって訪れる展示会「FOODEX」

FOODEXは他業種の展示会と比較した時に3つの大きな特徴があります。まず、圧倒的なバイヤーへの訴求力です。公式サイトにも記載されていますが、来場者の30%は商社や卸のバイヤーであり、特に輸入商社にとっては魅力的な訴求の場になります。二つ目は、飲食オペレーターや飲食関係者(外食、中食、給食)が全体来場者の20%を占めること。特筆すべきは、出展者からの招待券ではなく有料チケット(5000円)を支払って来場される方が多いということです。三つ目は、全体来場者のうち85%は仕入れ決定に関わるポジションにいる方と言うこと。特に、決定権に関わる人が85%もいる状況は、他業種の展示会ではまずありえず、商機を伺う意識の高いバイヤー、飲食関係者が数多くやってきていると言えます。

未来堂がFOODEXに最初に出展する際に社長プレゼンで私がお話ししたのは、このFOODEXという展示会の特性(来場者の30%がバイヤー、20%飲食オペレーターであり、全体の8割は仕入裁量者)を強く認識した上で、他の出展ブースとの差異化を図る事。具体的には展示ブースとしてユニークで魅力的なデザイン、テイスティングを中心とした来場者へのアプローチ、スマート&クイックな商談(特にバイヤーは時間のない中で来場している為、一社でも多く見て回りたい)を主軸に置いてブースのプランニングとデザインに取り掛かりました。

プランニングアプローチとブースデザイン

展示会のブース計画は、飲食店の出店計画とよく似ています。目的は何か?使えるリソースは何か?来場者へのベネフィットは明快か?など、非常にシンプルです。未来堂の場合は、1:中小規模のワイナリーがリリースする美味しい普段使いのワインの紹介、2:国内の流通基盤を持っている未来堂がプロデュース、3:日本では取り扱われていないワインが中心、となります。また、未来堂は単年ではなく、複数年の連続出展する事を念頭に置かれていたので、その中でどうアプローチするか慎重にプランニングを行いました。複数年にまたがって出展する最大のメリットは「認知化の拡大」に尽きます。特にFOODEXの来場者は毎年来られる方が多いので、リピートされるもしくは前回立ち寄れなかったが今回はのぞいてみた、など深掘りする事ができるのです。このような与件を整理していくと、自ずと形やアプローチのスタイルが見えてきます。

まずブースのデザインは、小間サイズに対し規定一杯の高さで存在感を意識してデザインしています。展示会は気づいてもらわないと意味がないですから(笑)、高さが生かせるデザインを念頭に置いています。次にトーン&マナーがあり、デザインチェンジをあまりしない事。複数年経過しても経年進化しているようなわずかな差異で変えていくことによってリピーターに安心して立ち寄ってもらう事を狙っています。これは意外に重要な事で、大手メーカーと異なり認知度が低い出展者の場合、社名やブランド名の掲出だけでは弱く、ブース全体のデザイントーンを大きく変えない事で「既視感」を与えます。これが安心に繋がるわけです。その結果、ラウンド形状のユニークなブースデザインを調整しながら毎年計画しています。(昨年のブースデザインはこちらから)。細かなところではビジュアルを多用し、生産者の息吹を感じてもらえることに注力しています。

プランニングのアプローチとしては、テイスティングと商談エリア(初年度)のスタイルから、主要ワインのテイスティング+ワイナリーから生産者を招き直接消費者と接してもらう”ワイナリーコーナー”の設置(2年目)、2年目のスタイル+欧州EPA発行に伴う還元アイテムワインコーナー(3年目の今年)とその時の状況とニーズに即した展示計画を実施しています。初年度の商談コーナーの設置は内部でも賛否があり、スマート&クイックの観点から2年目からは改め仕組みを簡略化する事で解決しています。これによってスペースが生まれ”ワイナリーコーナー”の設置に繋がっていく訳です。来場者側から見たFOODEXの魅力は試飲試食ができ舌で判断できることです。よって、試飲できるテイスティングカウンターはマストアイテムであり、ワイナリーコーナーは他のワインインポーターとの差別化となります。このようなトライアル&アジャストメントは複数年出展だからこそできる事であり、費用対効果を高める事ができます。


最も大切なのは、情緒的な価値観の共有と信頼感

デザイナーとして、今回のようなケース(展示会の出展アプローチの計画、クリエイティブのディレクション)に取り掛かる時に大切にしていることは、出展商材のポテンシャルをしっかりと感じていただけたか?と言うことです。飲食店同様、出展時には商材(今回はワイン)のレクチャーを受け、並べ順、置き方、提供方法までアプローチを考えていく訳ですが、展示会のような短時間で来場者の印象を決めてしまう空間デザインの場合、非常にエモーショナルな部分で判断をされてしまいます。今回のケースでは、中小のワイナリーが中心のラインナップ、品数豊富、目利きしながら普段使いできる上質なワインを提供しており、このポテンシャルをデザインを通じてしっかり”共有”できたか?となります。この情緒的な価値観の醸成こそ、信頼に繋がっていくと手応えを感じています。未来堂のケースでもおかげさまで、来場者とリード獲得、取引件数ともに想定を上回り結果が出ています。計画を立てる、見立てるといったロジカルな部分はもちろん大切ですが、ロジカルなベースを持ちつつ”感じる事”を蔑ろにしない事。商材の品質が良いほど、この効果は絶大です。感性を大切に扱っていく事はフードビジネスに関わる全ての人たちの使命ではないでしょうか。。

参考リンク:
FOODEX 2018 MiRAiDO booth @ Designcafe
FOODEX 2019 MiRAiDO booth @ Designcafe
未来堂
Pleasure Wine@未来堂 公式サイト
FOODEX JAPAN

Text by

平澤 太

理事 / 株式会社デザインカフェ

平澤太:日本フードビジネスコンサルタント協会

環境デザイナー / デザインストラテジスト
変化するコミュニケーションの形態とアクティヴィティーの関係性に着目しながら、体感から得られる印象と効果=インタラクションを重視したデザインを展開している。アジアデザインアワード、DSAデザインアワード、SDA賞、CSデザイン賞、JCDデザインアワードなど受賞歴多数。