2021/03/01

デリバリーカートとフードスタンド(屋台)のデザイン開発

個人的なソーシャルアクティビティの一環として開発開始

1回目の緊急事態宣言解除後、都内で5店舗展開するフードオペレーターの友人と食事をする機会がありました。営業時間の制限とソーシャルディスタンスによる動員客数の制限は深刻な売上低下を招き、ランチで提供していたメニューのテイクアウト提供も売れているものの、これまでの夜の営業で得られた売上を回復するには至らないという、ため息しか出ない内容の話でした。しかし、後ろを向いてばかりもいられないということで店舗から徒歩で徘徊できるマンションエリアを中心にテイクアウト屋台を始め、お客さまを捕まえにいくという積極的な施策を話してくれました。テレワーク推奨になり、都心に人が戻ってくるまでの間かもしれませんが、収束の目処が未だ経って以内現状を見るとポジティブなお話です。これがコトの発端になり、安価に導入できるデリバリーカートとフードスタンド(屋台)のデザイン開発をはじめました。2020年10月のことです。

シーンと機能を想定。

前出の友人いわく「デリバリーカートのような屋台って探しても良いデザインのものがなかなか無い」「ランチボックスの売値でだと高価な屋台では償却できない」というジレンマでした。友人の話を参考に、行きつけの飲食店のオーナーなどのヒアリングも含め、考えうるシーンと仕様を想定しました。

◉ 店舗で仕込み⇨店舗から2〜3km圏内の住宅エリアに展開できるテイクアウト屋台
◉ オフィスへ出張できる(→コンパクト)
◉ 簡単な調理ができ、許認可が取れれば公園などへも展開
◉ 店先において一杯飲み屋のように使える屋台

◎ お弁当100食程度の積載が可能でできるだけコンパクトに、軽くて頑丈に。
◎ 掃除しやすく錆びたり朽ちたりしない。メンテナンスは容易に。
◎ 無理のないデザイン。お店の屋号が入れられるように。
◎ 簡単な調理がその場でできる仕様だと最高。

といった感じに集約し、これを元にデザインを開始。機能的に相反する部分もあるので、一つはテイクアウト屋台専用、もう一台は簡易調理可能なコンパクト屋台を前提に開発を進めることにしました。

そして補助金での導入しやすい価格を想定。

同時に導入しやすい価格になっていなければ意味がない為、価格設定(原価を含めた製作コスト)を割り出すことにしました。今回のきっかけでもある「飲食店の弁当販売」であれば経済産業省の”事業再構築補助金”が活用できます。そこで、この補助金の支給要件をベースに逆算して「価格設定と原価の作り込み」を行い、デザインにフィードバックすることにしました。

事業再構築補助金の大まかなポイント

● 中小企業であれば100万円〜6000万円で2/3を補助(通常枠)
● 通常枠から一定の条件を満たせば100万円〜500万円で3/4の補助(緊急事態特別枠)
● 設備費(屋台)や広告費、リーフレットなどのデザインと印刷費も賄える

ポイントは特別枠の3/4で、逆を返せば1/4の負担で済むことです。500万円を超える高級な屋台をつくわけではないので(笑)、この補助金が活用できる前提で上記ふたつの屋台とリーフレット印刷、各種広告費(折り込みやウェブ広告)がセットで賄える「価格設定と原価の作り込み」を行いました。話はそれますが、この事業再構築補助金は事業変更に伴う店舗の改修費用(飲食店から弁当販売店へのチェンジ)や外注を伴う商品開発費用などにも当てられるため、該当する飲食業の方は活用を前提に検討してみてください。

屋台のコードネームは「The Stand」

個人的なソーシャルアクティビティの一環とはいえ、開発には屋台大工や厨房板金、グラフィックデザイナーなど様々な人を巻き込みます。そこで何か貞の良いネーミングはないか?と考えて浮かんだのは、屋台を意味する英語のStandStall、イタリア語のbancarellaの3つでした。同時にいつも食で楽しませてもらい、仕事でもお世話になっている飲食業界を微力ながら応援すること、この小さな屋台を景気転換の起爆剤として「立ち上がる」意味合いからThe Stand」シリーズと名付けました。

 


フードデリバリーカート The Stand “HF-104”

The Stand HF-104 開発背景:

HF-104は、The Standファミリーの中で最も小型でコンパクトなデザインの屋台です。 日本人の大好きなカレーライスや豚汁、煮込みなどのスープ系&汁物系の食事を提供するために開発しました。 日本の食品衛生法では、屋台で食事を提供する場合、加熱調理が義務付けられているため、 このスタンドではカセットコンロでの調理(もしくは再加熱)を想定しています。 また、クーラーボックスを設置することができるので、簡単な飲み物を提供することもできます。 また、新型コロナウイルス感染症に伴う、テイクアウト&デリバリーへの参入を検討されている飲食店やスタンドスタイルでお弁当などを移動販売されている方向けと考えたとき、まず移動が容易でコンパクトな屋台キットが必要と考え、最も小型なHF-104からリリースした次第です。

弁当専用デリバリーカート The Stand “HF-104” Designcafe

仕様:

筐体のサイズは、W600/D600/H1000(天蓋部分はH1900)。トップのテーブルは回転式で3枚が回転しながら拡張、収納部分は棚と寸胴鍋とカセットコンロを格納できカスタムも可能です。厨房板金の技術を全面的に採用。天蓋屋根は取り外しが可能です。

提供予定価格:当協会にお問い合わせください

 


フードデリバリーカート The Stand “HF-103”

The Stand HF-103 開発背景:

HF-103は、The Standファミリーの中でもっともコンパクトなThe Stand HF-104の格納量を約二倍にし、小型可搬可能で大人数での炊き出し、加熱調理と販売の二系統の作業が1台で賄えることを念頭におき開発しました。業務用寸胴鍋70Lであれば2台格納でき、業務用寸胴鍋70Lを1台+五徳ガスコンロ+ミニガスボンベと言った本格的な加熱調理も賄える仕様になっています。HF-104より格納量があるため、Barスタイルで飲料を提供してみたり、仕込み済みのお弁当(50~100食分程度)を移動しながら販売するなどのスタイルにも対応でき、汎用性の高いモデルです。2021年1月よりプロトタイプ開発。4月リリースを予定してます。

仕様:

筐体のサイズは、W600/D1200/H900〜950。トップのテーブルは蝶番式で前後2枚のトップカウンターが左右に展開しながら拡張、収納部分は棚と70Lの寸胴鍋と五徳コンロ+ミニガスボンベを格納でき、内部の仕様は別途カスタムすることも可能。屋根は取り外しが可能です。厨房板金技術を応用、製作するため安全性と頑丈さを兼ね備えています。

提供予定価格:当協会にお問い合わせください

 


コロナ渦に対応する食のあり方としての屋台のデザイン

日本で屋台をイメージする場合、縁日やお祭りや元旦の神社に並ぶ屋台を思い浮かべることが多いかもしれません。また、博多・長浜を中心に博多名物になっている屋台をイメージする方もいるでしょう。これらを考察すると、前者は提供して持ち帰りながらいただくケースであり、テイクアウトの一種です。後者の場合は移動店舗に近く、提供の形態は飲食店のそれと大きく変わりません。今回、提案する屋台デザインは、その中間のポジションを目指しています

提供して持ち帰ってもらう「テイクアウト」の形態と屋台近隣や公園でキープディスタンスを保ちながら「外で食事が楽しめる」外食性など、利用する人たちがシーンを選べること。屋台の機動力に着目してデザインを進めています。

現状、日本の屋台を含めた食品の移動販売は、参入障壁的には高くなく比較的商売しやすい反面、販売エリアごとに管轄保健所への申請が必要であったり、公園などはこれとは別に国交相や地方自治体に届出が必要など、非常に煩雑です。そのためエリアを絞ってローカルで展開する屋台が多く、また移動販売は道路使用許可や占有許可を取らない限りストップアンドゴーで販売する決まりがあり、これに対応する屋台のデザインが急務でした。HF-103&104を先行開発したのは、上記のような屋台にまつわる日本ならではの事情があるためです。 現在では、屋台をバックアップする各種サービスが台頭、特にキッチンカーでは車の取得改造、場所の斡旋まで全て手がける会社も出てきており、参入しやすい環境が整ってきています。

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックも、いつかは収束します。同時にこのパンデミックによる混乱を教訓にして、住む場所やリモートワークの定着による働く場所の分散化が進み、外食産業もリスクマネージメントの一環としてテイクアウトや中食、デリバリーなど「導入しやすい食のモビリティ」ジャンルへのチャレンジは今後も続くと予想しています。利用する側も外食への期待、楽しみは普遍ですし、消費者が外食の価値そのものを否定的に捉えていないのはマーケットデーターでも明らかです。食のボーダレス化は進み、デリバリーを前提にした外食と中食を併用のバルやレストランなども近い将来登場してくるでしょう。

 

Text by

平澤 太

理事 / 株式会社デザインカフェ

平澤太:日本フードビジネスコンサルタント協会

環境デザイナー / デザインストラテジスト
変化するコミュニケーションの形態とアクティヴィティーの関係性に着目しながら、体感から得られる印象と効果=インタラクションを重視したデザインを展開している。アジアデザインアワード、DSAデザインアワード、SDA賞、CSデザイン賞、JCDデザインアワードなど受賞歴多数。